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長崎地方裁判所 昭和54年(ワ)497号 判決 1980年7月09日

原告

桑原幸子

被告

坂上雅行

主文

一  被告は、原告に対して、五六万七、六六八円及びうち五一万七、六六八円に対する昭和五三年三月一九日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対して、一八八万二、〇五五円及びうち一六三万二、〇五五円に対する昭和五三年三月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和五三年三月一八日午後二時頃、長崎市坂本町一番九号先路上を横断歩行中の原告に、被告運転の普通乗用自動車(以下加害車という。)左前部が衝突した。

その結果、原告は、右足関節内骨折、右足関節挫創、打撲による歯牙の動揺及び周囲組織の炎症の傷害を受け、直ちに長崎大学附属病院に入院して治療を受け、同年三月二〇日には渡辺整形外科医院に移り、同日から同年四月二八日まで入院治療を受け、同年五月一五日から同年九月一八日まで通院治療(治療実日数一四日)を受け、その間、同年八月一二日から同年九月二日まで入院治療を受けたが、足関節の背屈で自動左八〇度、右八五度、他動左六五度、右七〇度、底屈で自動左一四五度、右一四〇度、他動左一五〇度、右一五〇度の構能障害を残し、更に、阿比留歯科診療所に、同年四月一八日から同年五月八日まで通院治療(治療実日数五日)を受けた。

2  被告は、加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法三条により、原告が本件事故により蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

3  原告が本件事故によつて蒙つた損害は、次のとおりである。

(一) 治療費及び文書費 一〇六万一、八四〇円

(イ) 長崎大学附属病院 三万四、三七〇円

(ロ) 渡辺整形外科医院 九三万九、一七〇円

(ハ) 阿比留歯科診療所 八万八、三〇〇円

(二) 入院雑費 三万五、四〇〇円

原告は、入院期間(五九日間)に諸雑費として一日金六〇〇円を支出した。

(三) 交通費 六、七七〇円

(四) 付添看護料 一九万八、〇〇〇円

右入院期間中一日三、〇〇〇円、通院日(一一四日)につき一日一、五〇〇円。

(五) 義歯費用 五三万四、六四五円

原告は、事故当時一〇歳の女子であり、義歯を成年に達するまでの間、少なくとも四回は治療及び補綴物の交換をしなければならず、その費用は、一回につき一五万円であるから、四回分を年五分の中間利息をホフマン計算法により控除すると、その現価は五三万四、六四五円となる。

15万円×3.5643=53万4,645円

(六) 慰謝料 一五〇万円

原告は、右受傷により、長崎大学附属病院、渡辺整形外科医院、阿比留歯科診療所に入院又は通院を余儀なくされ、そのうえ右足の歩行障害や醜状痕の後遺症が残り、特に女性であることから、その肉体的、精神的苦痛は甚大であり、その慰謝料は金一五〇万円が相当である。

(七) 損害の填補

原告は、損害の填補として、自動車損害賠償責任保険から一〇〇万円の支払を受けたほか被告から七〇万四、六〇〇円の支払を受け、損害の填補額は合計一七〇万四、六〇〇円である。

(八) 弁護士費用 二五万円

以上により、原告は、(一)ないし(六)の損害額合計三三三万六、六五五円から(七)の填補額を控除した残額一六三万二、〇五五円を被告に対し請求しうるものであるところ、被告は、その任意の弁済に応じないので、本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任し、着手金一〇万円を支払い、謝金として一五万円を支払う旨を約した。

4  よつて、原告は、被告に対し、一八八万二、〇五五円及びうち弁護士費用を除いた一六三万二、〇五五円に対する事故発生の日の翌日である昭和五三年三月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、前段の事実は認めるが、後段の事実は不知。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実中、(一)、(七)の各事実は認めるが、その余の事実は不知。

三  抗弁

原告は、本件事故現場たる車道を横断するに際し、左方向から走行して来る貨物自動車のことには目を向けたが、反対の右方向から走行して来る加害車の動静については確認しないまま、左方向からの前記貨物自動車が通過したら安全だと軽信し、その通過直後に、そのまま飛び出し横断をしたため、右方向から走行して来た被告運転の加害車と衝突したものであり、原告の右過失も本件事故の一因というべきであるから、賠償額の算定につき、右の点を斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実中、前段の事実及び同2の事実は当事者間に争いがなく、同1の事実中、後段の事実は、原本の存在及びその成立に争いのない甲第二ないし第一一号証、原告法定代理人の尋問結果により認められる。

したがつて、被告は、自動車損害賠償保障法三条により、原告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

二  そこで、原告が本件事故によつて蒙つた損害について検討する。

1  治療費等及び文書費 一〇六万一、八四〇円

請求原因3(一)の(イ)、(ロ)、(ハ)の各事実に当事者間に争いがない。

2  入院雑費 三万五、四〇〇円

原告が、前記入院期間中(合計五九日間)、一日六〇〇円の割合による雑費合計三万五、四〇〇円の支出を余儀なくされたことは、経験則上明らかである。

3  交通費 六、七七〇円

原本の存在及びその成立に争いのない甲第二ないし第四号証、第六号証、第一一号証、原告法定代理人の尋問結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証の一ないし六、同尋問の結果を総合すると、原告は、阿比留歯科診療所に通院するためタクシーを利用し、その代金として六、七七〇円の支払を余儀なくされたことが認められ、これは原告の負傷箇所が右足関節で歩行が困難となり松葉杖を利用したりしていたことからすれば、本件事故との間に相当因果関係があるものと思料する。

4  付添看護料 一九万八、〇〇〇円

原本の存在及びその成立に争いのない甲第二ないし第四号証、第六ないし第一一号証、原告法定代理人の尋問結果を総合すれば、原告は、本件事故の日から昭和五三年九月二日までの間に、長崎大学附属病院、渡辺整形外科医院に合計五九日間入院し治療を受け、その間自力での歩行もままならぬ状態で付添看護を要し、原告の母等が付添看護をしたこと、また退院時も渡辺整形外科医院に実日数一四日間通院し、その間、同じく原告の母等が付添看護をしたことが認められる。

右認定事実によると、付添看護料は、入院について一日当り三、〇〇〇円、通院について一日当り一、五〇〇円をもつて相当と認めるから、原告主張の付添看護料一九万八、〇〇〇円はこれを是認できる。

5  義歯費用 四六万二、四二四円

成立に争いのない甲第一五号証、原告法定代理人の尋問結果を総合すると、原告は、本件事故により歯冠破折のため治療及び被綴を行つたが、これは永久的なものではなく、今後事故当時一〇歳の原告が成人するまでの間に少なくとも四回の治療及び補綴物の交換をしなければならず、その費用は、一回につき少なくとも金一五万円とみこまれることが認められる。そこで、前記治療及び補綴物の交換は、原告が成人するまでの一〇年間を四等分した二年半ごとに一回ずつ行なわれると考えるのが相当であるから、二年半ごとに一五万円の損害が生ずるものとして年五分の中間利息をホフマン計算法により控除すると、四六万二、四二四円となる。したがつて、義歯費用としては、四六万二、四二四円を相当と認める。

<省略>

6  慰謝料 八五万円

(一)  入・通院に関しての慰謝料の額について判断するに、本件傷害の部位、程度、治療の経過、本件事故の態様(但し、原告の過失を除く。)、原告の年齢その他諸般の事情を考慮すると、原告に対する入・通院期間中における慰謝料は八五万円とするのが相当である。

(二)  成立に争いのない乙第八号証、原告法定代理人の尋問結果を総合すれば、原告が、後遺障害等級事前認定請求をするも、後遺障害として認定されるに至つていないことが認められ、これに反し、後遺障害に対する慰謝料を認めうるに足る証拠はない。

よつて、前記1ないし6の損害合計額は、二六一万四、四三四円となる。

7  過失相殺

成立に争いのない乙第一ないし第七号証、被告本人尋問の結果を総合すれば、被告は、普通乗用自動車を運転し、長崎市坂本町一番九号先路上を浜口町方面から目覚町方面へ時速約四〇キロメートルで走行中、本件事故を引き起こしたわけであるが、本件事故現場は、九・五メートルの道幅のアスフアルト舗装道の直線部分で見通しがよく、本件道路の両側には道幅二・九メートルの歩道があり、また本件現場から右折すれば国道二〇六号線へ続く道幅六・八メートルの通路が交わる三差路となつているところ、被告が本件現場より浜口町方面へ約三二メートル手前のところにさしかかつたとき、本件現場を左側歩道から右側歩道へ横断しようと歩道をおりて車道左側端上に立ち止つている原告に気づき、しかも原告が目覚町方面より進行してきた貨物自動車の方ばかりに注意を払い、浜口町方面から走行してきた被告の加害車にいまだ気づいていないことを直感したものの、いずれ気づき注意を払うものと漫然約一九メートル進行したところ、その意に反し、原告は右貨物自動車が自らの目の前を通過するや、右側歩道の方へ横断しようと飛び出し、被告もこの瞬間危険を感じ急制動の措置をとつたが及ばず、原告に衝突したのである。

一方、原告は、本件事故当時、小学校四年生(一〇歳)であつたが、横断歩道ではない本件現場の左側歩道の防護柵の切れ目から、反対の右側歩道の方へ横断しようとして、まず浜口町方面からは車両がきていないことを確め、次に目覚町方面からの車両を確かめたが、貨物自動車が接近してきたのでしばらく待ち、右貨物自動車が目の前を通過してしまつた直後に安心して本件現場を横断しようとして駆け出したところ、右貨物自動車の通過を待つている間に、浜口町方面から接近してきた被告運転の加害車に気ずかず、加害車にはねられてしまつたことが認められ、右認定を動かす証拠はない。

以上の認定によれば、被告は、加害車を運転中、信号機のない三差路付近を左側歩道から左側歩道方向へ横断しようとする小学生である原告を認めたのであるから、警笛を鳴らすか、減速徐行して、原告の動きを確認し、後方を通過するなどの措置をとるべきであつたにもかかわらず、加害車を漫然と運転した過失があり、その過失は重大であるが、原告も横断歩道でない場所を防護柵の切れ目から、左右の安全を充分に確認せず横断しようとした過失が認められ、これも本件事故発生の一因であつたといわねばならず、両者の過失の割合は、原告一割五分、被告八割五分とするのを相当とする。

8  損害の填補

原告が損害填補として合計一七〇万四、六〇〇円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。したがつて、原告が被告に対し請求し得る損害金は、五一万七、六六八円となる。

そうすると、前記損害額二六一万四、四三四円のうち被告に賠償せしめるべき金額は、二二二万二、二六八円をもつて相当と認める。

9  弁護士費用 五万円

原告は、本件原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、請求認容額その他本訴訟にあらわれた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある損害として被告に負担させるべき費用としては、五万円が相当である。

三  よつて、被告は、原告に対し、以上の合計五六万七、六六八円、及びうち弁護士費用五万円を除いた五一万七、六六八円に対する事故発生の日の翌日である昭和五三年三月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右限度で本訴請求を認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鐘尾彰文)

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